南木山物語（１７）

《田舎暮らし＆リゾート》

　　　　　　　　　　　　　　南木山の女　２　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　作　　　唐松　緑

南木山（なぎさん）の山中を通っているくねくねとした長い道は、カラマツの落ち葉が積もって、茶色のふかふかとしたジュウタンのようになっている。 　松井太郎は足の裏になんともいえない心地よさを感じながら、桂木の後を追って歩いていた。 　前方に紅葉したカラマツに囲まれた一軒の家が建っている。 　桂木がその家の前で足を止めた。 　傾斜地に建っているその家は北側に道路があり、玄関までの通路がしゃれたベランダのように見える。 　玄関の扉の前に桂木が立っていた。
太郎が近づいていくと　「どうぞ」と言って桂木が玄関の扉を開けた。 　太郎は桂木に導かれて玄関に入り、居間へと進んだ。 　居間に足を踏み入れた太郎はハッとして足を止めた。
「おう、これは！」 　正面に大きな油絵が置いてある。 　その絵の素晴らしさに太郎は我を忘れて見入っていた。 　カラマツの紅葉が見事に描かれている。 　茶色や黄色、濃褐色や金色をしたカラマツの落ち葉が絵の中で風に吹かれて舞っている。 　一人の女が絵の中にうつむいて立っている。 　その女性の長い黒髪が、松風に吹かれて舞い上がっている。 　その黒髪には乱舞する無数のカラマツの葉が戯れている。 　「素晴らしい絵ですね、カラマツの心を描いているように思えます。この女性はカラマツの精ですね」
太郎は感動して続けた。 　「この絵は人間が自然と一体になると、このように美しくなる。　と、私たちに教えてくれているような気がします。私の言葉ではとても表現できないほどの素晴らしさです」 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つづく