南木山物語（１９）

《田舎暮らし＆リゾート》

　　　　　　　　　　　　　南木山の女（４）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　作　　　唐松　緑

南木山の紅葉が終わり、カラマツの葉は残らず地面に落ちている。 　初冬のこの時期に桂木の展覧会が始まった 　桂木が出品した《南木山の女》は大変な人気を博していた。 　絵の前には､連日大勢の人々が集まって《南木山の女》を見ながら賞賛していた。 　美術評論家の先生方からも近来まれな作品と絶賛をあびていた。 　会場に行った太郎と華子は感動して絵の前に立っていた。 　華子がつぶやくように言った。 　「あの絵の中の女性は私ではないわ。あの女性は南木山と桂木さんが作ったまぼろしの
女なのよ。だからあんなに現実離れをして美しいのだと思います」 　「そうだね、南木山をテーマにして、桂木さんはこんなに素晴らしい絵を描いたんだ。華子もそのお手伝いが出来て良かったではないか」
「それはもう、大変光栄で嬉しいことです」 　華子は絵の中の女性を見ながらうれしそうにうなづいていた。 　東京から北軽井沢・南木山に戻った華子はベランダに座って思いのままに書いていた。 　松風の音を聞いてください。 　唐松の葉と一緒に空を舞って楽しみたい 　木々のささやきが聞こえますか。 　小鳥たちと一緒に歌いましょう。 　遠くで水の詩が聞こえます。 　蝶の羽音が聞こえるような静けさです。 　小さな花々が蝶に呼びかけています。 　”私のところにも遊びに来てください”と。
あっ、可愛いリスがカラマツの幹を登っていく。 　南木山、私の愛する南木山。 　このおおらかな自然よ、永遠に！ 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つづく