南木山物語（１５）

《田舎暮らし＆リゾート》

　　　　　　　　　　　　　南木山の女　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　作　　　唐松　緑

秋も深まり、南木山では地面も道も唐松の落ち葉でいっぱいになっている。 　冬の雪は、あたり一面真っ白に隠してしまうが、カラマツの落ち葉は、小さい潅木や草などを隠さずに、綺麗に飾り立ている。 　この頃になると南木山の所々で、カラマツの落ち葉を持ち上げるようにして、きのこが頭を出してくる。 　松井太郎は、腰にきのこ狩り用の籠を結わえて南木山の山中を歩いていた。 　歩きながら太郎は1週間前の華子の様子について考えていた。 　あの日太郎はいつものように、ベランダでカラマツの紅葉を眺めていた。その時遠くから
華子がカラマツの落ち葉を体中に付けて、　ボーとして戻ってきたのだ。 　戻った華子はパタパタと唐松の葉を落としはじめたが、細い松の葉が髪や洋服に突き刺さってよく取れないでいた。 　太郎は華子のそばにいって、突き刺さったカラマツの葉を1本1本取ってやっていた。
その時、太郎は華子の様子がいつもと違うのを感じた。 　華子は生来、明るく華やかな女性だ。 　若い頃は清楚な、美しい女だったが、太郎と結婚してからは少し肉感的な、魅惑的な美しさを漂わせていた。 　その華子が、カラマツの葉で洗い清められたのか、はたまた南木山の精霊に洗い清められたと言うのか、どこか超人間的になってしまったのだ。 　無口で、静かになって、なんとも不思議な雰囲気をかもし出しているのだ。 　華子のそんな様子は4，5日続いたが、その後はいつもどうりの華子に戻っていた。
「あれは何だったのだろう」 　太郎はふかふかとしたカラマツのじゅうたんを踏みしめながら思っていた。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つづく