南木山物語（１６）

《田舎暮らし＆リゾート》

　　　　　　　　　　　　南木山の女　1　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　作　　　唐松　緑

カラマツの紅葉を迎えた南木山では、ちょっと風が吹いても、金色の松の葉が空高く舞い踊る。 　華子のことばかりを思いあぐねていた太郎がふと、自分の足元を見た。 　なんと、カラマツの落ち葉を持ち上げて、きのこが丸い頭を出しているではないか。 　「イグチだ！」　イグチは唐松林の中に出るきのこだ。 　イグチを取りながら周囲を見ると、あそこにも、ここにも、きのこがいっぱい頭を出している　太郎はどうやら、きのこの群生地に足を踏み入れたようだ。 　太郎は夢中になってきのこを取っていた。 　籠の中はきのこでいっぱいになっている。
きのこ取りに熱中していた太郎が、ふと、立ち上がった。目の前に桂木が立っている。いつもの事だが、まるで南木山から降って湧いたような現れ方だ。 　「やあ、こんにちわ」 　太郎は長い間こごんでいて痛くなった腰をたたきながら挨拶をした。
「きのこがいっぱいありますね」 　桂木はその繊細な手に、形のいいきのこを掴んでいる。 　「今まで南木山できのこ狩りをしていて、こんなにきのこが生えていたのは初めてですよ。この南木山別荘地が出来た頃は、あたり一面にきのこが出ていたそうですが、毎年大勢の人がきのこ狩りをするので、少なくなってしまったとの事ですよ」 　「そうですか」 　桂木はうなずいた後に、何か思うことがあるように言い出した。 　「ちょっと遠いですが私の家にお立ち寄り下さいませんか。松井さんに是非見ていただきたいものがあります」
「私に見せたいものが、ですか」 　太郎はいぶかしそうに顔を横にした。 　すでに、桂木は自分の家に向かってスタスタと歩き出している。 　「まったく、いつお会いしても不思議な人だ。でも私に何を見せたいのだろう」 　太郎は見えない糸に引っ張られるように桂木の後を追った。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つづく