南木山物語（１０）

《田舎暮らし＆リゾート》

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　一本の杖　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　作　　唐松　緑

「山の中に道を造るのには、山の地形に合わせた道を作らなければ、良い道路は出来ない」 　浅日国三郎は土木会社の技師と、測量士を連れて南木山（なぎさん）の山の中に居た。 　「私は長年、南木山の山中を歩いていたので何処に、どんな道を造ったらよいか、頭の中に出来ている。」 　国三郎はそばにいる技師と測量士に向かっていった。 　「専門家の皆さんのご意見を聞きたい」 　国三郎は愛用している茶色の杖で山頂に向かって真直ぐに指した。 「この方向に向かって幹線となる広い道路を造る、どうかね。」
「おっしゃる通りで良いと思います」　技師と測量士は口を合わせていった。 　「次に、斜めにこの方向に道を造る」
国三郎は続けた。 　「ここには小川が流れている。小川に沿ってこの方向に道を造って、石垣を積む」 　このようにして国三郎の持つ”一本の杖”は５０万坪もある南木山の山中に縦、横、斜めと、道を造っていったのである 　国三郎の指し示す杖の正確さには土木技師も、測量士も舌を巻くほどであった。 　大きな石を運んで石垣を作り、道路には石と砂利を深く入れてしっかりとした硬い石の道を造った。 　大きな石灯籠の道標を所々に置いた。 　管理事務所の横には、池のある公園が出来て噴水も上がっている。
山間を流れる幾筋かの小川は、そのままの形で生かされている。 　「唐松の森林だった南木山は、その自然を保ったままで、見事な別荘地へと変身した」 出来上がった別荘地の中を、隅々まで歩き回って国三郎は大変喜んだ。 　国三郎が一番苦心したのは、自然をあるがままに生かした別荘地を造ることだった。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つづく